« あの“ことのは”の松永英明氏がオウム真理教信者だった件 | メイン | 天下の悪法?「PSE法」で経済産業省が一部方針転換? »
2006年03月14日
東芝とキヤノン、SED方式大画面平面テレビの発売を大幅延期
僕にとってはこの話題の方がずっと重要だったのですが、いろいろあって(ケガもしたし)こんなに遅くなってしまいました。
3月8日発表ということで一週間近く経ってしまいましたが、非常に残念で腹も立つニュースです。
株式会社東芝とキヤノン株式会社は8日、次世代薄型ディスプレイ「SED」の量産第一段階としての生産開始を2007年7月とし、SED搭載テレビの発売を2007年第4四半期に延期すると発表した。
2007年第4四半期! 早くても2007年10月、ってことですよね。あと1年半以上先です。遅すぎます。
市場は、いまの液晶やプラズマに完全に席巻されるのではないでしょうか。
SED(Surface-conduction Electron-emitter Display:表面伝導型電子放出素子ディスプレイ)というのは、このブログでも何度か期待を持って取り上げたものですが、かいつまんで説明すると
SEDは、次世代ディスプレイとして注目されているFED(Field Emission Display:電界放出素子ディスプレイ)の一種。ブラウン管並みの応答性、色再現性を厚さ10ミリ程度の薄型テレビで可能にするなど、ブラウン管とフラットパネルディスプレイの長所をあわせ持つのが特徴だ。
というもので、すごく大ざっぱに言うと、液晶の単位画素のような超小型サイズのブラウン管(CRT)がビッシリ平面に並んでいるという構造です。
もう少し詳しく説明し、なぜ期待でき、なぜ残念なのか書いてみましょう。
そもそもSED方式はなぜ画質がいい(と言われる)のか
ブラウン管方式テレビの最大の長所は色再現性やコントラスト、あるいは応答速度という見地から見た画質ですが、一方最大の欠点は、“画素型”と呼ばれる、液晶やプラズマ方式の大画面テレビに比較すると、画面の隅に行くほどどうしてもフォーカスが合いづらくボケた感じになりやすいということです。
液晶やプラズマは真ん中も隅っこもまったく同じ方法(の画素)で映像を映し出すので、画面全体の画質が均一になるわけです。
これに対してブラウン管方式は、ブラウン管という真空管の奥に位置する一本ないしは三本の電子銃から打ち出す電子によって、遠く離れた(と言うと言いすぎですが)画面の蛍光体を発光させることで描画するので、四隅になるほど電子の制御が難しくどうしても画面全体にはピントが合いづらくなるのです。
画素に当たるものがブラウン管でできていることで(<語弊のある言い方ですが)、ブラウン管画質の映像が画面全体で均一にクッキリ表示される、というのが SED の大きな特色です。画素型ブラウン管方式とでも言えるかもしれません。
僕はいまの液晶やプラズマの大画面テレビが、曲がりなりにも画質にこだわってきた人間が飛びつくようないい画質だとは全然思えないので、上に書いたような技術的見地から本質的・原理的に優れていると考えているこの SED 方式に当初から多いに期待していたのです。
別の意味で画質がいいと考える、リアプロジェクションやフロントプロジェクションのものはまた話が別ですが。
◆参考
SED 方式の基本的な動作原理等に関しては下記にありますので、ご興味ある方はぜひご覧ください。
●Canon Technology ー次世代薄型ディスプレイSEDー
また、技術者向けのかなり詳しい動作原理等に関しては下記をご覧ください。ちょっと図が見にくいですが。
●【Display 2005レポート Vol.2】SEDの動作原理や量産までのロードマップを紹介——基調講演より
製造が原理的に難しいFED方式
実は SED を含めて総括して FED(Field Emission Display)と呼ばれるこの方式は、きわめて狭いギャップに高圧ガスを封入し超高電圧をかけるという構造などから、原理は優れているものの、しかしその原理ゆえに現実的に製造がきわめて困難、とも評されていました。
事実、ソニーを始め各社もずっと研究してきていたにも関わらず、キヤノン以外はほぼ全社断念してしまっているというものでもあります。
#ソニーなんかは水面下でやってる?
ただ一社、キヤノンのみが不屈の根性で(笑)実用化にこぎつけ、実際のテレビ作りのノウハウの豊富な東芝と組んで、今春の製品化・市場投入間近・・・だったのでした。
余談と言うべき話ですが、キヤノンというのはスチルカメラのみならず業務用テレビカメラのトップ(を争う)メーカーでもあります。ですから、テレビ番組もキヤノンのカメラで撮影されたものを我々が見ている可能性が少なくないのですね。
スチルカメラもデジタル化が急速に進行し、コンピュータやテレビの画面上で写真(静止画)を見ることも多くなりました。
この会社は、撮る方は“ウチ”の製品であることが少なくないのに、最終的に映し出された画像をユーザーが鑑賞するのが他社製品であることが非常に悔しい、と考えていた会社で(社長が力説してましたっけ)、一般消費者が使うディスプレイやテレビを自社で作ることが悲願だったのです。
しかし、上のような実情から詳細を知る人ほど「本当に製品化できるの?」と言っていたのもまた事実です。
今回の発表ではそういうわけである意味、“危惧されていたことが現実になった発表”でもあり、実際に、
発売時期を当初予定の今春から07年末に延期したため、市場では「撤退観測」が浮上している。これに対し、御手洗社長は、後発組ながら世界シェアを獲得したデジタルカメラを引き合いに出し「やめない」と3回繰り返した。
といった少し悲観的とも言える報道も出てしまいました。悲壮感すら伺える会見ですね。
今回の延期の理由とその背景
今回こうした発表に至った最大の理由が、
今春に発売する計画を明らかにしていたが、量産化に手間取り十分な数量の確保が難しく、急速に価格下落が進んでいるPDPや液晶に現状で対抗することは難しいと判断したもようだ。
ということで、やはり製造工程で予想以上に手間取っている様子であることと、市場で、松下電器やパイオニアなどのプラズマ方式と、シャープやソニーの液晶方式が激戦を繰り広げているため、それらのメーカーですら予想できなかったほどの激しいコスト競争が起きてしまっていること、という二つのことが原因です。
この延期について両社は
「薄型テレビの市場は特に2008年以降、北京オリンピックの開催や、世界的にデジタル放送への完全移行が進むことにより、本格的な需要の拡大が見込まれる。こうしたことから、SED搭載テレビの販売ターゲットを2008年の北京オリンピック商戦と定め、商品投入を進めていく」
としているのですが、僕はそれでは遅いと思うんですよ。
今年はサッカーの世界選手権も行われるわけで、その前にまた商戦の盛り上がりがあるのは確実ですしね。
たしかに、昨年初めて出荷額で平面ディスプレイ(薄型テレビ)がブラウン管方式(CRTテレビ)を上回ったばかりで、一般家庭にはまだまだブラウン管方式のテレビが多数使われているわけです。
つまり、それを平面テレビに置き換える潜在需要が非常に大きい状態であるのは間違いないわけですから、ここで1年半程度の遅れは大したことはないともたしかに言えるかもしれません。
前述のように、キヤノンの御手洗冨士夫社長は
「良いものを出せば一瞬に世界に出回る。出遅れは問題ではない。今、無理やり出すより、生産方式から見直して一気呵成(いっきかせい)にやった方がいい」
という考えで、たしかに一理あるとは思います。
ますます先行する液晶とプラズマ
しかし、こと日本ではすでに液晶とプラズマのテレビの売れ行きは好調なわけで、一般消費者の大画面テレビの認知はこの二方式で固まりつつあるとも言えます。
一番の問題は、前述したような画質の良さを一般の消費者が理解し、受け入れてくれるか、ということにあります。
前言を撤回するようですが、普通の人はそこまでの画質を追求するでしょうか? ぶっちゃけ、今のでも十分に画質がいいと満足している大多数の人たちが、画質を第一義に評価し、その差を認めてくれるかということにはかなり疑問を感じます。
それよりも少なくともいまは大画面でハイビジョンが見られることこそが重要で、さらにいえばそれがより低価格であることにあります。
SED が量産にすら苦慮して足踏みしているこれから一年半の間にも、液晶とプラズマ方式は市場原理に揉まれながらお互いに切磋琢磨し、間違いなくより画質が上がり、より低価格になって行くわけです。
折しも松下電器産業は本日(14日)、
プラズマパネルの主力拠点である尼崎工場(兵庫県尼崎市)の第2ライン生産能力を計画より3割引き上げると発表した。今年7月に稼働させ、月産12万5000枚(42型換算)の能力を持つ予定だったが、100億円を追加投資して同16万枚にする。年末商戦などをにらみ、供給力を拡大する。
なんていうニュースもありましたし、この松下電器だけでなく、液晶陣営の雄・シャープも先日、品質(画質)の代名詞にすらなっている亀山工場への150億円追加投資・増強を発表するなど、この手のニュースは連日枚挙にいとまがありません。
すでに開発うんぬんが喧伝される段階はとっくに終わり、いかにたくさんのパネルを生産し、どれだけ多く消費者に最終製品であるテレビとして届けるか、ということにしのぎを削っているわけです。
そんな流れの中で、一年半後という“遠い将来”に SED 方式が登場しても、時すでに遅し、ということにもなりかねません。というかその可能性が大だと、僕は少々悲観的になっています。
実は SED は大画面がより低コストで作れるとも言われていたようなのですが、今回こうした延期の発表があると、たとえ次に“最初の量産ライン”が動いても、それほど低価格では作れないのではないか、と危惧されます。
だからこそ、いま出すべきだった
だとすれば、どうせ安く作れないのであれば、の少々乱暴な話です(笑)。
いま、なにがなんでも出そうと思えば出せる、というキヤノンの社長の言葉を信ずるならば、まだ---いまはまだ---大画面テレビが決して普及しているとは言えないこの段階で、試作品の選別品のようなものしか用意できずどんな高価格になろうとも、あるいは儲けを度外視しても、当初のスケジュールを守ってこの方式のテレビを世に出すことには多いに意義があると考えます。
つまり、「ちょいと待て! 液晶、プラズマだけが大画面テレビじゃないぞ。SED というのもあるんだぞ!」と“認知・啓蒙活動”をすべきだったのではないでしょうか。
両社はまた、
「SED搭載テレビの市場投入を、ブラウン管テレビの誕生に次ぐ50年に一度のテレビ市場の転機ととらえ、コモディティ化しない商品を作り上げることに最も注力している」とし、「新ジャンルの高画質テレビ」として市場での地位確立を目指す、としている。
と“崇高な理想論”をぶち上げていますが、ハッキリ言えば、大画面で高画質だとは言え、テレビは“コモディティ=日用品”です。趣味的にこうした商品を選ぶ人間はごくわずかだし、そういう人向けの商品としては、フロントプロジェクターのようなまた別のジャンルの商品と競わなければなりません。
ブラウン管方式テレビしか世にない時代に、いきなり“初めての大画面平面テレビ”としてこの SED 方式が液晶やプラズマに先駆けて出てくるならいざ知らず、一般的に見れば“同じ平面のテレビがまた”出てくるだけに見えるわけです。
それを、ブラウン管方式に次ぐ革命、みたいに消費者が捉えてくれると本気でお思いですか?
非常に甘すぎます。
皮肉たっぷりに言わせていただけば、Blu-ray Disc を敵に回して本気で勝てると思っている東芝らしい、と言うしかありません。
そんな東芝と組んだキヤノンはご愁傷様、というしかありません。本当はソニーこそ、ふさわしい相手だったように思うのですが。
細かいスケジュールほか
最後に、それでも僕は一年半後を期待して待っている、と書き残し、それまでの詳細スケジュールを書き留めておくことにしましょう。
あとは、一般消費者も来場するいろいろな展示会でできるだけ試作機のデモンストレーションをする、といったプロモーション活動を期待するしかありません。
両社にはぜひ精力的にそうした活動をしていただくよう、心から希望したいと思います。
当初の計画では、2006年中に研究/開発拠点の平塚事業所でパイロットラインを稼動し、2007年1月から東芝の姫路工場で本格量産開始が行なわれる予定だった。しかし、今回発表された2007年7月の量産第一段階は、平塚事業所で行なう計画に変更された。姫路工場での量産開始時期については「再検討している」(東芝 広報室)という。
このため両社が計画していた、量産ラインが立ち上がる前に、2006年内に平塚事業所でSEDを少量生産して、SED搭載テレビを限定出荷するという予定はなくなった。SED搭載テレビが市場に登場するのは、最短で2007年第4四半期ということになる。
- 東芝:プレスリリース (2006.3.8)「SEDの発売時期等について」
- キヤノン株式会社・プレスリリース「SEDの発売時期等について」
- 東芝とキヤノン、次世代薄型ディスプレー“SED”の発売を2007年第4四半期に延期
- ロイター「キヤノン、薄型テレビSED事業を継続する方針を改めて表明」
- NIKKEI NET:主要ニュース『キヤノン社長、SED搭載テレビ「絶対あきらめない」』
- ITmediaニュース:東芝、SED量産拠点は姫路に
- ITmedia ライフスタイル:キヤノンと東芝、次世代ディスプレイ「SED」合弁会社設立 (1/2)
- SEDテレビが買えない - 日経エレクトロニクス - Tech-On!(この記者の方もさぞ落胆されていることでしょう(^^;;)
- SEDとは 【表面電界ディスプレイ】 (Surface-conduction Electron-emitter Display) ─ 意味・解説 : IT用語辞典 e-Words
- FEDとは 【電界放出ディスプレイ】 (Field Emission Display) ─ 意味・解説 : IT用語辞典 e-Words
- 2005年のテレビ出荷額、世界一はソニー--液晶、リアプロともに好調 - CNET Japan
- シャープ社長、液晶パネル工場に150億円追加投資を表明 ビジネス-業界動向:IT-PLUS
投稿者 Shin : 2006年03月14日 18:36
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://skys.jp/mt/mt-tb.cgi/3902
このリストは、次のエントリーを参照しています: 東芝とキヤノン、SED方式大画面平面テレビの発売を大幅延期:
» 次世代ディスプレイの「SED」、登場が2007年末に延期 from President's Blog
orz 今のTVの寿命とSEDの発売どちらが早いかなぁ(^^;... [続きを読む]
トラックバック時刻: 2006年03月15日 02:06
» 東芝とキャノン、SED発売を大幅延期で年内出荷断念 from Digital One Contents
東芝とキヤノンは、次世代薄型ディスプレイ「SED」の量産第一段階としての生産開始を2007年7月とし、SED搭載テレビの発売を2007年第4四半期(最短)に延期... [続きを読む]
トラックバック時刻: 2006年03月15日 08:56
» ハイ、消えた!? from 日々雑感
次世代ディスプレイ競争で、液晶、プラズマに続く第三の方式として注目を集めているSEDですが、開発をしている東芝とキヤノンが発売時期を延期したようです。
次... [続きを読む]
トラックバック時刻: 2006年03月15日 09:55

